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「なんで僕の横を歩くんだ」
「あいにくと方向が一緒なんだ」
 タリカーンはちょっとうんざりしながら答えた。
 少年は嫌そうに顔をそむけた。
 タリカーンだって、できればもっと楽しい旅の道連れが欲しい。しかし、少年が気になってしまうのだから仕方がない。タリカーンはしばらく少年を見守っていようと考えていた。
 なんだかあまりに向こう見ずで強気な少年のことが、心配になってきたのだ。
 はっきり言って少年の鼻につく高慢な態度は嫌いだ。時々、調子にのるのもいい加減にしろ、と怒鳴りつけたくなる。だが、それだけで放っておく気にもなれない。
(…なんとも、危ういんだよなあ……)
 タリカーンは少年を横目に見ながら、ため息を落とした。

 次の村に着いた時は、もちろん別々の行動を取った。それでも街道に出て歩くと、前に少年の姿を発見してしまうのだから笑えてしまう。
「またあんたか」少年はあきらめたように肩を落とした。
「もう少し嬉しそうな顔をしたらどう?こんなに美人なお姉さんが一緒に来てくれるのに」
「………」
「はいはい、もう何か言う気も起こらないわけね」
 上等じゃないか、とタリカーンが少年をこづこうとすると、少年は慣れたようにそれをよけた。

 そんな調子で日が過ぎてゆき、いつの間にかジャインタインの街までもう一歩、という所まで来た。ロークタルクとの中間にあたる位置でもある。
「いやあ、ここまで来れば、ほとんど半分まで来たようなもんね。なかなか順調じゃない?」
「そうだな」
 少年はくすぶっている火に木の枝を放りながら答えた。
 空には薄闇の帳が下りつつあり、まだ明るい中にも、早くも星のきらめきがいくつか見えていた。
 今夜は野宿だった。街道から少し離れた場所に留まっている。
「このパッチナ食べる?」
 少年はタリカーンが差し出したパッチナ――小麦粉を練った薄い生地を焼いたもの――に見向きもしなかった。
「ちょっと」
「何度言ったら分かるんだ。食いたいなら勝手に食え。けどこっちに構うな」
 少年は不機嫌そうに肩越しに言って、持っていたパンのかけらを口に入れた。
「…まだ私が毒を入れると疑っているのかい。ずいぶん用心深いこと。友達少ないね?」
「当然の用心だ」少年が淡々と答える。
「さいですか」ため息をついてタリカーンは離れた。
 食事が済むと、各々好きな場所に寝ころがり、ローブにくるまった。


 ――夜半、タリカーンは木の枝が折れる乾いた音で目を覚ました。
 周囲を囲むように置いておいた木の枝がなったということは、獣か人がそれを踏んだということだ。タリカーンは全身を緊張させて固まった。…人か?獣か?
 起き上がろうとする直前に、抑えた声が聞こえた。
「…静かに。僕だ」
「きゃっ!夜這い?」
 ちょっと茶目っけを出してみる。
「黙ってろ。人が来る」少年の怒りを抑えた声が飛んできた。
 タリカーンは起こしかけた上体を横たえた。「なんで分かる?」
 少年は身を低くして、タリカーンから少し離れた地面にしゃがみ込んだ。舌打ちが聞こえる。
「…まずいな、今夜は月が明るい。――地面に耳をあててみろ」
 タリカーンは言われたとおりにした。振動がある。
「……馬だね」
「よく分かったな。優秀だ」何故か上からものを言う少年。「先を急いでいる人かもしれない。が、にしては人数が多いようだ。五人はいる。用心のためだ、動くなよ」
 タリカーンはうなずいた。
 じっと見つめていると、闇の中で見えにくかった物の輪郭がはっきりしてくる。少年はほとんど這うようにして地面と同化し、街道の方向に顔を向けていた。月夜のため、その目が暗闇でもきらりと光る。腕も光った。
「……腕に何かつけてる?」
「何?」
「腕の金物をはずすか隠した方がいい。反射してる」
 少年が素早くローブで腕を隠し、念のためかフードも下ろした。そのまま待つ。
 やがて、街道を駆けていく集団の姿が道を横切った。少年の予想どおり、六人だ。
 二人はじっと静かにして、馬に乗った集団が通り過ぎるのを見つめていた。
「早めに寝て正解だったね」
 影が遠くに行った頃、タリカーンは口を開いた。
「ああ」
 少年は立ち上がり、元の場所へ戻った。今夜は寝ずで朝を迎えるのだろうか。
 ならば安心だ、と思って、タリカーンは遠慮なく寝させてもらうことにした。


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